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最高裁判所第二小法廷 平成10年(行ツ)146号 判決 1998年11月27日

徳島市北島田町一丁目一二五番地

上告人

清水寛

右訴訟代理人弁護士

小川景士

徳島市幸町三丁目五四番地

被上告人

徳島税務署長 中村隆保

右指定代理人

杉山典子

右当事者間の高松高等裁判所平成九年(行コ)第六号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成一〇年二月二六日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小川景士の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成一〇年(行ツ)第一四六号 上告人 清水寛)

上告代理人小川景士の上告理由

目次

はじめに

第一点 所得税法第五六条の「生計を一にする」の解釈適用を誤っている

第二点 本件更正決定および異議決定理由の不備。差換。追完(判例違反)

第三点 上告人と小南武男間で決済した固定資産税については「およその分担であり実費の精算ではないから」とした原審判決の誤り憲法一三。一四。八四条に反する。

第四点 家事費三対一の割合についてを「およその分担であり、実費の精算ではないから」と補正した原審判決の誤り

第五点 原判決二の判示「武男方の電話は大部分ヤマト有限会社が使用していた」の誤り。

第六点 小南ハルミが支払った固定資産税及び上告人が小南ハルミに支払った地代家賃について 憲法一三。一四。二九。八四条に違反する。

第七点 偽証の指摘 乙第一九号証、証人の陳述書について 憲法三二条に反する。

第八点 信義則に反する

1 被上告人の信義則についての主張に対する反論

2 家事ノートについて

第九点 突然の差別扱いを受けたことは憲法一三。一四。二九条に反する。

第十点 小南武男について

第一一点 所得税法第五六条の立法趣旨 憲法八四条に反する。

第一二点 被上告人のなした更正処分の附記理由不備を認めた原審判決

第一三点 判例違反

おわりに

はじめに

第一審及び原判決は、上告人(以下原告又は控訴人と表示することもある)が、上告人と小南武男及びハルミが所得税法第五六条に規定する「生計を一にする」親族でないことを、あらゆる資料証拠により、最大の努力をはらって主張したが、その主張を一切認めず訴えを棄却した。

しかしながら、被上告人(以下被告又は被控訴人と表示することもある)は当初更正処分を保障正当化するために躍起となり、異議申立・審査請求・訴訟の段階で資料の収集に奔走し(その一例・第四回口頭弁論期日の前日に法務局で交付を受けた登記簿謄本を弁論開廷直前に上告人<補佐人は許可されず本人だけ、この段階では代理人なし>に手渡し、)不意打ち的に証人尋問する等、処分後に処分理由を差し替え補完し、さらに虚偽の書証(乙第一九号証)まで作成してこれを第一審で提出し、これに基づき虚偽の証言をまことしやかに公然としている。

第一審判決は、被上告人の右の非違を始め、処分理由の差し替え、追完を総べて認め、これら被上告人の不当主張に対する上告人の法定における反対尋問を遮り、これに代えて陳述書の提出を補佐人に期日を指定して命じているにもかかわらず、陳述書(上告人の妻清水敦子・上告人の義母小南ハルミ・輔佐人野田義郎以上三名が各自提出分)については無視して判決に至っている。

ところで原判決においても、「当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するものであり、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「第三、当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるからこれを引用する。」と判示して、理由をすべて第一審判決を漫然と鵜呑みにしている。そればかりか補正理由の内容に至っては、取扱通達及び経験則を無視した違法がある。

しかしながら、本件所得税更正処分は、上告人と親子(義父母)関係にある私人間の平和な生活関係に、特段の事情(租税回避)がないにもかからわず突然被上告人が介入したことになり、それぞれの家族関係は勿論のこと、憲法が保障する人権・生活・経済・財産を脅かし破壊し、違憲となるものである。

したがって本法を適用するに当っては、これらの影響を十分弁えたうえで慎重でなければならない。

そこで、上告人は次の理由で上告する。

第一点 所得税法第五六条の「生計を一にする」は解釈適用を誤っている

所得税法第五六条によれば、納税義務者と生計を一にする親族が納税義務者の営む事業に従事したこと等により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は納税義務者の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入しないものと定めている。

さらに、この「生計を一にする」とは、その意義を所得税法取扱通達(基本通達)二―四七において次のように規定している。(1)は省略

「親族が同一の家屋に起居している場合にも、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。」

1 これを本件についてみると、被上告人が更正処分をなした更正通知書の附記理由は、「あなたと小南武男及び小南ハルミが、同一家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所を共用している状況等から判断して生計を一にする親族と認められますので、所得税法第五六条<事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例>の規定により、必要経費から減算します。」としているに過ぎない。

2 被上告人はこれだけの理由によって、上告人が小南武男、同ハルミに支払った給料及び地代を必要経費に算入しないとする判断の理由にしている。

3 さらに本件第七回口頭弁論(平成八年三月二二日)速記録三八頁一三行目から四〇頁五行目において、被上告人指定代理人(早川)と山崎証人との間に次のような尋問と答述がある。

問 証人のほうとしては、生計を一にするかどうかについては、どのような判断をされて、更正処分をされたんでしょうか。

答 清水さんと小南さんは、同じ家屋に住んでおられまして、それで台所や玄関、風呂、便所につきましても同じものを使われておりました。こういう状況から判断しましても、明らかに生計は一であるというふうに認定されました。」

問 で、生計を一にするということで、奥さんの御両親に対する給与と地代を清水先生の必要経費から除いたということですね。

答 はいそうです。

問 生計を一にするかどうかで、同じ家屋に起居している、生活しているということだったんですが、その判断はどういうことに基づいてされたんでしょうか。

答 …………

右のとおり「生計を一にする」についての判断はどういうことに基づいてされたんでしょうかの問に対して、証人は沈黙が暫くの間続き、附いたまま眼を瞬いたりして返事に困惑されている状態がありありとうかがわれた。

4 以上のとおり、本件の更正決定の処分理由と、前記尋問に対する証人の答えが同じ主旨である。すなわち処分時の判断も、訴訟時点での認識も、「生計を一にするかどうか」の判定の要因は、同じ家に住み・玄関・台所・風呂・便所を共用している状況等からの判断だけでもって、所得税法五六条の課税要件が充足されると考えている。

5 さればこそ、上告人及び補佐人が平成三年一二月から更正決定処分直前の三月上旬までの間に(「生計を一にする」の判断は、外観や形式にとらわれず、実態や実質に即して、事実認定をして下さい。)ということを証人に対して数回にわたって要求している。

6 ところが証人は、生計を一にするの判断は、「同一家屋に居住し、玄関台所、風呂、便所を共用している状況判断で事実認定は十分である。」の一点張りで上告人と小南らが、明らかに互いに独立した生活を営んでいることについては判断の必要が全くないとして、上告人や補佐人の言を全然聞く耳をもたなかった。さらに上告人や補佐人が、「生計を一にしていないという事実を過去の調査の時に認めてもらっております。当時の調査関係の書類を御覧になっていただければその事実が判明します。」とこれまた何回も証人に要求したにもかかわらず証人はその都度、「そのような事実はない。前は前だ、今回は絶対更正決定処分をする。証人の判断は誤りがないから過去三年分の更正決定をする。」と繰り返し遮二無二主張して突貫した。

しかしながら、課税要件事実の判定に必要な事実関係と、法律関係の外観と実体が異なっている場合には、外観や形式にとらわれず、実体や実質に即して事実認定をしなければならない。外観ないし外形から、社会一般の通念によって判断すれば、課税要件事実に該当する事実が存在するようにみえる場合であっても、実体ないし実質に立ち入ってみると、その事実が存在しない場合がある。したがってこのような場合には、課税要件の事実は充足されていないとして、当然課税処分をすることは許されない。

反対に外観ないし形式によれば、課税要件に該当する事実がないようにみえる場合であっても、実体ないし、実質を調査してみると、課税要件は充足されたものとして課税処分が当然である場合がある。これを本件に照らしてみると、正に前者外形によって事実を認定し、誤った認識の上に立って課税要件事実を認定誤認している。すなわち外形的判断から推測予断したものである。したがってこのような事実認定誤認を避け、所得税法五六条の規定を正しく適用するためには、少なくとも次に掲記するような事項の何点かについて、処分特における実体や実質を確認したうえで、真実に存在する事実や法律関係に即して、課税要件の事実を認定しなければならない。

一、住民登録や、その他の公的な手続き等が、それぞれ別個の世帯として行われているかどうか。

一、それぞれの起居する専用部分が明確に区分されているかどうか。

一、自己の計算において独立した生活を営んでいるかどうか。

一、親と子の財布は同一かどうか。

一、親と子の財産はそれぞれが管理しているかどうか。

一、右に賦課される諸税公課は、それぞれが負担しているかどうか。

一、食事は世帯ごとにされているかどうか。

一、食事の経費・電気・ガス・水道代等の共通経費の区分計算ができ、その実費の清算が、毎月定期的にできているかどうか。

一、給料や地代等は、決められた額で、毎月決められた日に支払われ、その額や支払方法が恣意的になっていないかどうか。

一、源泉所得税、県市民税、社会保険料等が毎月確実に、他の従業員と同じように徴収され、納付されているかどうか。

一、その他家事経費について、親族間で明確に処理・決済されているかどうか。

右各項についての調査検討を加え、社会通念経験則等により、慎重な判断をすべきであるにかかわらず、外観や外形的のみからした判断の誤りは、第一審の山崎証人の証言と書証(乙第一九号証)にてらして訴訟記録上顕著な事実であるのに拘らず一二審とも看過し省みようとしない。

7 前記各項について、上告人と小南武男らの日常生活の面について、「外観と実体」「形式と実質」とがどのようになっているかを明らかにしたうえで、慎重に実質的な判断のもとに、課税要件事実の認定が必要である。「生計を一にする」の事実の存在を示す具体的な事実が、法規の構成要件事実、すなわち主要事実にあたるものであるにかかわらず、被告はこの主要事実の確認を全く看過し、外形的に親子が同一家屋に居住しておれば、その実体がいかようであろうとも「生計を一にする」とする事実認定ができるとしている。このような誤った認識と、誤った法解釈のもとに処分時における、要件事実の存在を示す具体的根拠や資料について何一つ明らかにすることなく、しかも恣意的な推測による事実予断をしたことが、重大な事実認定誤認の原因となっている。すなわち慎重な調査判断を欠いている。最近二世帯住宅が数多く見受けられるが、これらについて、被上告人のような外形的な推測による予断を事実として利用し、それをもって法的な事実関係認定の判断資料とすると、二世帯住宅の100%が「生計を一にする親族」に該当することになる。課税庁としては、このような軽率な外形的な推測による事実予断に基づいて、課税要件事実を認定するということは、その実体や実質からかけはなれた恣意的な事実認定となり、その課税処分は許されない。課税根拠となる法律の規定に違脊し、事実誤認してなされた本件課税処分は、審理の結果始めて分かるということでなく、処分成立の当初から誤認であることが明白である。

何んとなれば、上告人と小南武男らは、明らかに互いに独立した生活を永年にわたって営んでいるという特段の事情があるにかかわらず、これらの内面的事情についての事実確認は全く行わず、外形的な、しかも推測的な事実関係のみによって、法律関係を無視した誤った判断によって課税要件事実を認定誤認したことによるからである。

以上によって、本件課税処分は、当初課税要件事実認定にあたり、所得税法第五十六条の「生計を一にする」の解釈を誤り事実認定をした結果、課税要件事実が充足されないで更正処分をなしたという重大な瑕疵があり、ひいて所得税法第五六条の規定の適用を誤った違法がある。

したがって、各係争年分の更正処分は取消を免れない。

第二点 本件更正決定および異議決定理由の不備、差替、追完(判例違反)

1 本件更正及び異議決定理由

(一) 青色申告に係る所得税について更正を行う場合には、更正処分庁は更正通知書に更正の理由を附記しなければならない(所得税法一五五条二項)がそれは、法が青色申告制度を採用し、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重性、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を被処分者に知らせてその不服申立の便宜を与えるためであると解されている。

したがって、右の理由附記においては、更正処分庁の判断過程を具体的に明示するとともに、その判断が課税行政庁の把握した事実に基づく場合には、その事実認定が単なる推測・憶測に基づくものではなく、相応の根拠を有するものであることを示し得る程度に、右認定を裏付ける資料を適示すべきものである。

帳簿記載事実又は帳簿記載において前提とする事実に基づいて単にその事のみを否認する場合には、そのような評価判断に至った過程自体を、また、更正処分庁の把握した事実を加えて異なる評価をしたときは、その事実の根拠について、やはり、更正処分庁の恣意の抑制及び相手方の不服申立の便宜という理由附記制度の趣旨に適う程度に具体的に説明又は摘示する必要があるものと解すべきであるとされている。

ところが、被上告人が、平成三年三月一三日付でなした本件に係る更正の理由は次のとおりである。

2 被上告人がなした更正の理由

(二) 本件各係争年分の各更正通知書(甲一の一ないし三)には、更正の理由として、上告人が武男及びハルミに支払った給与につき、「あなたと小南武雄(「武男」の誤記と認められる。)及び小南ハルミが同一の家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所を共用している状況等から判断して生計を一にする親族と認められますので、所得税法第五六条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》の規定により必要経費から減算します。」と記載されており、上告人がハルミに支払った地代及びハルミが徳島市に納付した固定資産税・都市計画税についても、右と同旨の記載とともに、それぞれ必要経費から減算あるいは加算する旨記載されており、その記載は、武男夫婦が同条所定の上告人と生計を一にする親族に該当し、上告人が同人らに支払った給与賃金及び地代家賃は上告人の事業所得の計算上これを必要経費に算入することはできないし、また、ハルミが徳島市に納付した上告人の病院経営に必要な東洋病院の敷地等に係る固定資産税及び都市計画税はこれを必要経費に算入すべきであるとする趣旨であると解することができる。

しかしながら、所得税法第五六条の規定を適用するためには上告人と小南武男・ハルミ(以下小南らという)が「生計を一にする」ことが前提条件となっている。

ところが、前記更正の附記理由によれば、上告人と小南らが、「生計を一にする」と被上告人が事実認定した判断の根拠は、上告人と小南らが、「同一の家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所を共用している状況等から判断して生計を一にする親族と認められます」としたのみで、その他、実質的に上告人と小南らが「生計を一にする」とした判断過程が何一つ明らかに摘示されていない。上告人は小南らと永年に亘り(小南らの長女敦子と結婚以来)明らかに互いに独立した生活を営んでいるにかかわらず、何故に被上告人は「生計を一にする」と判断するのかその事実の根拠が附記理由だけでは上告人は到底理解できない。

そこで不服申立ての理由に困惑した上告人は、上告人と小南らが真実に「生計を一にしていない」実態の確認を要求して異議申立書(甲第二号一ないし三)を次の理由を主張して被上告人に提出した。

理由

私は別紙添付の住民票の記載事項にもありますように本籍 群馬県甘楽群下仁田字下仁田一六七番地で妻敦子、長男輝記、長女希実子も全員筆頭者である私清水寛に入籍いたしております。

当地で病院を開設した関係から勤務の都合上徳島で在住し、住居を故小南武男(妻敦子の父)の居宅に隣接して増築し(未登記)そこで今日まで生活を営んでおります。廊下伝いに小南家へは通じており、貴庁の理由書に記載せられておりますように台所・風呂・便所等を共用いたしております。電気水道代等の費用として毎月相当額を故小南武男に(武男死亡後は小南ハルミ)支払っており親子の和が金銭関係から支障をきたさないように配慮いたしてまいりました。

食生活も全然別関係で特に故小南武男は義母ハルミの準備した食事以外は気に召しませんでしたし、その上に私達家族と食事の時間帯も違うことから共にいたしたことはこざいません。

したがいまして、故小南武男や小南ハルミから生活の資を一切得てもおりませんし、また私がその資を両人に与えてもおりません。

明らかにお互いに独立した生活を営んでいるのが事実でこざいます。

前記の台所・便所・風呂等外形的判断のみで所得税法第五六条の居住者と生計を一にする親族の規定を適用せられることは、明らかに実態を無視し、同規定及び取扱通達の解釈を誤っておられると信じます。

一方故小南武男・小南ハルミに対し、不動産(病院敷地)の提供及び労働の対価として、貸料並びに給与を私は52年の開業以来両人に支払っておりますが、両人は昭和52年分から今日迄毎年貴庁へ申告納税を継続いたしております。その間、昭和54年分の小南ハルミの不動産所得について修正申告するよう貴庁からご指示があっただけでそれ以外は両人とも申告是認され、これにともなう地方税も完納してまいりました。

私清水寛の病院の所得税調査も今日迄数回お手数をおかけしましたが、その都度前記貸借料給与等についてお尋ねがありましたが、実態のご説明をいたしまして当時の各調査官達は実情はよくわかりました。所得税法第五六条の規定がありますが違法を犯しておりませんね。とおっしゃり、10年間にわたってお認めいただいております。

今回のご調査の際にお手数を煩わしました一部現金主義と発生主義の問題も当時の調査官から、今変更すると煩わしいから、このままのシステムで継続して下さいとのこ指導を尊重して今日迄まいりました。

以上申し述べましたことと同じことを、この度の調査官にも申し上げましたが、調査着手以来何ヶ月間も諸帳簿各証憑書類をお預けしたままになって、本年3月期限直前にお返しいただき前記の更正処分を受けました。

以上更正決定の取り消しを求めます理由を申し述べました。

参考までに私及び小南武男、小南ハルミの住民票を添付いたしましたからお調べ下さい。

なお、小南武男は同票にも記載のとおり平成二年七月二六日に死亡いたしております。

以上が上告人の異議申立書の理由である。

右の異議申立書に対し、被上告人の異議決定書は次のとおりである。

被上告人の異議決定書

次に述べるとおり申立人の主張には理由がありません。

申立人の主張(1)について

イ 申立人と小南武男及び小南ハルミはいずれも徳島市北島田町一丁目一二五番地に住所登録をされております。

ロ 前記イの所在地の建物の固定資産税の納税義務者は、増築部分を含めて小南武男となっており、平成元年一月以降は、徳島銀行(旧徳島相互銀行)本店の小南武男名義普通預金口座から支払われております。

ハ 前記イの所在地の建物は、本体と増築部分が廊下で通じており、玄関、台所、風呂、便所を共用していることが認められます。

ニ 小南武男及び小南ハルミは、電気水道代等の費用として毎日相当額を申立人に支払っていると主張されますが、それらの事実の確認ができません。

ホ 食事の内容、時間帯が異なると主張されますが、食事の内容は年齢、病気の有無等により、また、食事の時間帯は職業等により異なることはあり、そのことを以て生計を一にしていないとはいえません。

以上のことから総合的に判断すれば、申立人と小南武男及び小南ハルミは同一の家屋に起居しており、明らかに独立した生活を営んでいるとは認められず、所得税法基本通達二―四七《生計を一にするの意義》の規定により、生計を一にする親族であると認められますので、申立人の主張には理由がありません。

以上が上告人の異議申立書に対する被上告人の異議決定書である。

しかしながら右の異議決定書の理由は、上告人の主張に対して被上告人が原処分を維持するために、被上告人が不合理な恣意的な評価を加えたものにすぎないから、上告人は左のとおり被上告人の瑕疵を指摘主張する。(異議決定理由イロハニホの順)

イ、について

上告人の処分理由は、「あなたと小南武男及び小南ハルミが同一家屋に居住し」としていたのを、上告人が異議申立書に住民票を添付したことから、被上告人はこれを資料とし、これによって、「上告人と小南武男及び小南ハルミはいずれも徳島市北島田町一丁目一二五番地に住所登録されています。」とし原処分附記の「同一家屋に居住し」の表示を差し替えて変更している。

ロ、について

原処分になかった全く新しい理由で、「上告人が異議申立書に上告人の建物を、小南武男の居宅に隣接して増築した」と記載したことから、被上告人はその段階で銀行へ赴き、小南武男の普通預金の調査をして小南武男に係る固定資産税が同預金から支払われていることを認め、これを附記理由として追完したものである。したがって処分時の附記理由には全くなかった理由であるうえに全く誤った主張である。小南武男は上告人の居住用建物の固定資産税は支払っていない。その理由(甲第四六号証一〇―(2)に詳記)

ハ、について

原処分の理由は、「玄関・台所・風呂・便所を共用している状況」とあったのを、上告人が異議申立書に、「小南武男の居住に隣接して建てた上告人の建物で今日まで生活を営んでおり、廊下伝いに小南家へ通じております」と申立てた上告人の理由を引用したにかかわらず、あたかも被上告人の調査に基づく事実認定のごとく附記理由を差し替え追完している。

ニ、について

原処分の更正の理由に全く附記されていなかった事実で追完されたものである。上告人が異議申立の理由とした上告人と小南家の電気水道料金等の決済状況を被告は無視し、「それ等の事実はこざいません」としているが、そのように認めた根拠は何なのか、またそれは如何なる資料によるものか、理由にならないような理由を追完しても、理由がないのと同じである。

ホ、について

食事のことについて、これも全く新しい理由で原処分にはなく迫完したものである。これまた上告人が異議申立てにあたり、上告人が不服の事由として主張した食事関係の理由を引用し、これについて、上告人の真実の主張を引用し、全く恣意的な自己本位から判断した理由を附記しているが、実体や事実関係に基づかない理由附記は認められない。まして処分時に附記されていない理由附記であるから認められないのは当然である。

2 理由附記の差替え追完について

青色申告の所得金額を更正する場合には、更正通知書に理由附記が定められている。しかもその附記すべき理由は、例文的、抽象的なものでは足りないとされている。このように理由附記の有する手続的機能を重視することの当然の結果として、処分庁が一旦表示した更正処分の附記理由は、それを信頼した善意の国民を保護するために、更正処分の理由以外では、その処分を維持されることもないという、納税者権利救済のための手続的保障が異議決定・裁決・訴訟の段階において保障されている。このことは青色申告制度における信頼性に基づく信義則の法理の現れとなっている。さらにこの処分の理由は、異議決定・裁決・訴訟の段階において、理由を差し替える等して十分な理由が附記されても、その差し替え追完が認められないばかりでなく、争点主義でその理由の正否を審判するにあたり、当初処分に附した理由附記の不備の瑕疵は治癒されないことが最高裁の判例上定着している。(最判昭和四七年三月三一日民衆二六巻二号三一九頁、最判四七年一二月五日民衆二六巻一〇号一七九五頁、最判昭和四九年四月二五日民衆二八巻三号四〇五頁)右判例による判示の趣旨が、異議決定・裁決・訴訟等の段階で処分理由の差し替え追完を許さないとしている。何んとなれば、処分庁は処分時の慎重な調査を行わずに、単に理由附記の形式を整えただけで、真正な事実資料の検討もせずに、裏付けのない、暫定的な理由にならないような理由を附記して恣意意的な更正処分になるばかりでなく、処分後に事由をさがすことを認めることになるからである。

本件の場合、被上告人が理由の差し替えによって救済されることを前提に、敢て恣意的な理由を記載したとも考えられないが、むしろ、所得税法第五六条の解釈適用を誤ったことに困る附記理由の不備であると認識すべきが妥当のように思われる。いずれにしても理由不備であることは明らかである。

以上のとおり、被上告人がなした更正処分の理由附記の不備の瑕疵は、後日処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではない。

したがって被上告人は、青色申告更正処分の理由附記の不備の違法があり、その処分は取り消しを免れない。

第三点 上告人と武男間で決済した固定資産税は、「およその分担であり実費の精算ではないから」とした原審判決の誤り。

原判決は、「家事費ノート」の中の、上告人と武男間で決済した固定資産税の支払状況について次のとおり判示する。(判決五頁)

1 原判決の補正

(一) 「一三枚目表六行目の末尾に続けて「また、仮に右家事費ノートの「税8000清水から受取」との記載が、控訴人が武男に本件建物の控訴人ら居住の敷地の固定資産税相当額を支払い精算していたことを意味するものであるとしても、それは、土地の面積比から割り出した正確な金額ではなく、およその分担額であることが窺われるうえ、税金の支払行為も、武男の名義で控訴人が納付していたというものではなく、控訴人が武男に対して内部的に分担していたというにすぎないものであるから、これら金額や負担行為の態様は、互いに独立した生活をしていたことを証する資料とはなり得ないというほかない。」を加える。」

右原判決の趣旨は、上告人が武男に支払った固定資産税の金額と、その支払方法が互いに独立生活をしていた証拠にはならないという解釈をとっているものと思われる。

しかしながら、上告人の居住用建物の敷地の固定資産税については、前記原判決の補正において、「土地の面積から割り出した正額な金額ではなく、およその分担額であることが窺われると」判断している。

この固定資産税については、第一審において、上告人の補佐人が第一審議判長の命により提出した陳述書(甲四一号証)七頁25から九頁29までにおいて次のとおり陳述している。

25 原告及び原告の家族が居住する建物について。

原告は自費で居住用の建物を、小南武男の所有地の一部を借りて建築いたしております。この敷地分に相当する固定資産税を、原告は年四回に分けて小南武男、武男死亡後は小南ハルミに支払っております。(家事費ノートに記入してございます。)

26 前項の固定資産税については、平成四年九月一一日に、原告が高松国税不服審判所へ提出した審査請求書に対する実地調査のため、同審判所榊原正博審判官外二名が、平成五年二月一七日、一八日の二日間にわたって、原告自宅の応接間で実地調査があり、その際、家事費ノートに記載している原告が小南武男に支払った固定資産税が適正であるかどうかの検討をするため、小南武男、同ハルミが所有する土地建物に関係する書類(図面、固定資産税評価証明書等)が必要だから、それ等の書類を取り揃えて、平成五年二月二八日までに、同審判所藤原忠弘国税審査官宛送付するよう命ぜられました。

27 そこで補佐人は、原告から不服審判所の指示された期限までに、前項の書類を送付するようにその場で依頼を受けました。

28 補佐人は、丁度その時期は、所得税の確定申告中で繁忙を極めておりましたが、同時に榊原審判官から送付を命ぜられていました収入金明細書と共に、平成五年二月二五日に書留郵便にて一件書類を同封して送付いたしております。(甲第一二号証、同二三号証、同二四号証を参照していただければ真実が明らかでこざいます。)

29 したがいまして補佐人は、送付いたしました前項記載の申第二四号証の送付案内書に、お送りした送付書類に不足、不明の点がございましたら教示を賜るようお願いいたしてあり、その後、何等の連絡もいただいておりませんから、当然これらの書類で検討を終えられた結果、敷地相当分の固定資産税額が適正であると承認いただいたものと、原告及び補佐人も認識いたしておりました。

ところが更正処分を維持するために、被上告人が新たに主張した固定資産税の理由迫完であり過去の判例上(最判昭四七、三、三一民集二六巻二号三一九頁)迫完は許されないとされているに拘らず、審査請求、第一審、原審において、それぞれこれをたやすく認容した。また原審における判決においては、その固定資産税の按分額について、「およその分担額」であるというような曖昧な文言でもって、間違った法的評価を加え、苦し紛れの判示をしている。

さらに、控訴蕃の弁論期日において、補佐人は裁判長の命により期日指定で陳述書(甲第四六号証)を平成九年一〇月一三日提出しているが、そのうち固定資産税関係については、同書九頁から一四頁において次のとおり陳述している。

甲第一九号証について、(建物見取図、住居区分見取図)

本書証は、高松国税不服審判所へ審査請求した添付書類と同一のものである。被告が本件更正処分をなした附記理由が、「あなたと小南武雄(誤記武男が正しい)及び小南ハルミが、同一家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所を共用している状況等から判断して生計を一にする親族と認められますので、」としている。この理由は、外観や外形のみによって推測予断したものであって、なにゆえに、原告と小南武男らが、「生計を一にする」と認めたのか、その具体的事実や、根拠資料が何一つ明らかに摘示されていない。したがって、原告は異議申立にあたり何等の便宜を与えられておらず、申立の手段方法に困惑し、止むを得ず、異議申立の理由として、「原告の住居を、故小南武男(妻敦子の父)の居宅に隣接して増築し(未登記)そこで今日まで生活を営んでおります。廊下伝いに小南家へは通じており、貴庁の理由書に記載されていますように、台所、風呂、便所等を共用いたしており」と主張した。

ところが原告は、異議決定書において、原告の前記主張を援用して、「所在地の建物は、本体と増築部分が通じており、玄関、台所、風呂、便所を共用していることが認められる」を決定の理由としている。原告は原告が主張した理由を援用した点からみて、原告の建物及び小南の建物についての現状や実態を把握確認ができていないと判断した原告は、異議決定を不服として、審査請求をした際に不服審判所へ被告の誤謬を指摘した書に添付したものである。

したがって、この図面の内容は、本件処分当時の現状を図示したものである。第二三号証(高松国税不服審判所藤原忠弘審査官宛に左記の書類を郵送した事実を証する、「送り状」控えである。)

高松国税局不服審判所榊原正博審判官外二名が、平成五年二月一七、一八日の二日間、審査請求書に対する実地調査のため、原告宅へ来られた。その際、「家事費ノート」を検討され、そこに記載している原告が小南武男に支払った固定資産税が適正額であるかどうかを照合念査するため、小南武男、同ハルミが所有する土地建物に関係する書類(図面、固定資産税評価証明書等)が必要だから、それらの書類を取り揃えて、平成五年二月二八日までに、同審判所、藤原忠弘国税審査官宛郵送するよう命ぜられた。

したがって、本書証は左記の書証と一体をなすものである。

甲第一二号証(審判所送付証拠物、土地建物関係書類)

甲第二四号証(右同宛書類送付案内書控)

なお、右甲第二四号証の書類送付案内書に、なお書きとして、「添付書類に不足、御不明の点がこざいましたら、御手数相煩わし、恐縮でございますが、御教示賜りますよう御願い申し上げます。」としてあり、その後、不服審判所からは、何等の連絡もないから、当然これらの書類で検討を終えられた結果、原告建物敷地相当分の固定資産税(家事費ノートに計上額)が適正であると承認いただいたものと、原告及び補佐人は認識していた。

しかしながら、以上の事実があるにかかわらず、高松国税木服審判所は、裁決、甲第七号証一三頁(c)において認めていない。

この点につき、裁決の判断理由は次のとおりである。

「請求人の建物の敷地相当分に係る固定資産税相当額を請求人と小南武男との間で精算したとする証拠資料の提出はなく、他にこれを認めるに足りる証拠資料はない。」

右の裁決判断理由書を読んだ補佐人はその記載内容が余りにも常識を逸した虚偽の記述であるから輔佐人として堪えがたく、当時の担当審判官(榊原)の栄転先まで電話してその間違いを質したが、「現職を離れているし、裁決なっている以上如何ようとも仕様がない。後は裁判で争うしか方法はありません。」と、すげない答えである。原告及び補佐人は、不服審判所の実地調査の際、榊原審判官外二名の面前で、左記事実について証拠書類を提示して説明し、それぞれ確認のうえ、審判官三名は、この事実を認めている。

一、「家事費ノート」に記載した各費目順に、

1 電気水道代は、清水家が支払っていることを、病院の院長仮払金勘定と領収書で、

2 ガス、米代は、小南家で支払っていることを「家事費ノート」貼付の領収書で、

3 食材料品代は、満水家で支払っていることを「家事費ノート」貼付の領収書、レシートで、

4 固定資産税は、小南家で支払っていることを、一二四番地・土地・建物とも(小南家分)小南武男の普通預金通帳で、また、上告人の敷地相当分を「家事費ノート」の小南ハルミの受領印で、

それぞれ支払っている事実。さればこそ4の「家事費ノート」に記載の、上告人が小南武男に支払った上告人建物の敷地相当分の固定資産税年額三二〇〇〇円(各期分八〇〇〇円)が適正かどうかを判断するに必要だから、前記固定資産税評価証明書外の不動産関係書類(甲第一二号証)を平成四年二月二八日までに、不服審判所へ送付するよう指示があったのである。この指示に従い、補佐人が、所得税確定申告の最繁忙期にかかわらず、指定期日前に送付(甲第一二、二三、二四号証)した補佐人の協力をないがしろにするものである。

以上により、固定資産税相当額が原審が判断するような、およその分担額でないことが明らかであるから原判決の理由は当を得ていない。土地面積比から割り出した正確な面積のうえに、共用部分の面積も正確に加算しており、過去の調査時及び審査請求時の実地調査に来られた榊原審判官にも説明を了している事実が明確に保存してあり、各証拠も前記のとおり提出を了している。

そうすると、原判決が判断理由としている「税金の支払行為も、武男の名義で控訴人が納付していたものではなく」という理由は原審は何を指しているのが不明である。また次に「控訴人が武男に対して内部的に分担していたというにすぎないものであるから」に続くとしてもその意はなおさら不可解なものとなる。

さらに「これら金額や負担行為の態様は、互いに独立した生活をしていたことを証する資料とはなり得ないというほかない。」とまで断言するに至っては、ますます家事費経費についてばかりでなく、事業を行っている者の事業経費が明確に算定できない場合の税務計算の算定の認識程度を疑わざるをえない。

何んとなれば所得税法第四五条第一項及び同施行令第九六条並びに同取扱基本通達四五―一、四五―二には、家事関連費等の必要経費不算入等の規定が次のように規定されている。

家事関連費等の必要経費木算入等

第四十五条 居住が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。

一 家事の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

第四節 必要経費等の計算

第一款 必要経費に算入されないもの

家事関連費

第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。

一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

法第四十五条(家事関連費等の必要経費不算入等)関係

〔家事関連費〔第一号関係〕〕

主たる部分等の判定等

四五―一 令第九十六条第一号(家事関連費)に規定する「主たる部分」又は同条第二号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

業務の遂行上必要な部分

四五―二 令第九十六条第一号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑初頭を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が五〇%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が五〇%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

以上、法の規定及び同取扱通達によれば、必要経費の計算は、数額的に明らかに区分することができる場合とあるが、実務上は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の利用状況を総合勘案して判定することを是認し、また現に全国の課税庁もこの通達に従って機能していることは、税に携わる者のみならず、一般の納税者も周知の事実である。

さもないと、特に個人の納税者は確定申告書の収支計算ができないことになる。例えば電気代・ガス・水道等の料金計算に当たっては、個別にメーターが設置されていればともかく、設置されていないのが数多く見られるのが現状である。このような場合には前記したように合理的な基本により、按分計算が認められるのである。税法のみならず他の一般分野でも割合的計算が認められている。

しかしながら、前述した法令・通達において、また本件に係る所得税法第五六条の控除対象配偶者・扶養親族等においても、「明らかに」とか「生計を一にする」とかの用語が数多く見うけられる租税法の解釈・適用に当たっては、「憲法を頂点におく同一法体系のもとにおいては、同一用語は格別の理由がない限り同一の意味に解することを原則とする。」「昭三四・一〇・二七東京高裁三四「ネ」四〇二)と解されている。

したがって異なる意議で使用されていると解すべき合理的理由がある場合はともかく、所得税法中における同一用語は同一の意味に文理解釈すべきであるとされている。

そうすると、本件所得税法第五六条に係る基本通達二―四七の解釈においても、同法第四五条及び施行令九六並びに基本通達四五―一・四五―二を参照のうえ、上告人と小南武男らの家事費割合を算定のうえ「生計を一にするかどうか」を判断しなければならない。

このような考えで原判決の前記理由について検討すると、その内容は、かなり無理があると言わざるを得ない。しかもこのような判断は判決に大きく影響しているものと思われる。上告人のみがこのような差別的取扱をされる理由は毛頭ないというほかない。

何故かといえば、原判決において「土地の面積比から割り出した正確な金額ではなく」と判示している。

しかしながら、正確な金額ではないとする判断の基準は何であるのか全く摘示されていない。また「およその分担額であることが窺われる」と判示しているが、そのおよそは何を基準とし、どのような計算をした点からみてのおよそなのか、これまた明らかに摘示されていない。すわなち右のような判断に至った結論への推論過程が判決文には全く表示されていない。

推論過程の明示は裁判の原則である。前記所得税法第四五条の規定に準じて算定した上告人が小南武男から借用している上告人の居住用建物の敷地に相当する固定資産税相当額が何故およそと判断されるのか、認められないことになるのか判示の趣旨は明確でなく、このような判決文に対しては、上告人は到底納得することはできない。

所得税法第四五条に準じた按分の計算は通常一般に数多く実務的に機能し、課税庁もその計算を妥当なものとして認めているにかかわらず、上告人に限ってこれを否認することは、まさしくすべての国民が個人として尊重され、法の下に平等を宣明し、税務行政庁が行う租税法規の解釈・適用・租税要件事実の認定等については納税者が理解予測できなければならないとする租税法律主義の三点すなわち、日本国憲法第一三条・第一四条・第八四条に違反するものである。

ところで、「税金の支払行為も、武男の名義で控訴人が納付していたというものでなく、控訴人が武男に対して内部的に分担していたというにすぎないものであるから」と税金の支払方法についてまで判断しているが、判旨は一体何なのか、判示されている文言は極めて理解困難な表示といわざるをえない。

小南武男が上告人から受領した上告人の居住用建物の敷地相当分に対する固定資産税と、小南武男が当然支払うべき固定資産税との合計額を小南武男が本人の普通預金通帳(甲第二〇号証)から引落し納税したことの行為が何の理由をもってこれら金額や負担行為の態様は、互いに独立した生活をしていたことを証する資料となり得ないのか、その判示する根拠、判断となった資料について全く表記されていない。理由にならないような理由は理由がないのと同じである。第一審判決を鵜呑みにした上での判断は二重に過ちを冒しているといっても過言でない。

第四点 第一審判決(二)家事費の三対一の割合についてを「およその分担であり実費の精算ではないから」と補正した原審判決の誤り

家事費の三対一の割合について、一六枚目表一一行目の末尾に続けてされた原判決の補正(判決五頁末行から六頁五行目まで)の判示は、これまた(一)の判示と全く同じ判断論理のもとにされたものであって、その誤りは前記(一)において上告人が詳細に摘示した理由と全く同じである。

したがって家事費を上告人らと武男夫婦が三対一の割合で分担していたことは上告人が前項において主張した趣旨と同じであり当然認められるべきであり、「およその分担であり実費の精算ではないから」との判示は原判決の誤りであることが明らかである。

原判決2 控訴人の当蕃における主張についての(一)の判示に対する上告人の反論は、別項上告人の理由第点「所得税法第五六条の不合理性」において詳述しているから、ここでの記載は省略する。

第五点 腺判決(二)の判示「武男方の電話は、大部分、ヤマト有限会社が使用していた。」の誤り。

原判決は七頁一〇行目から九頁五行目までにおいて、ヤマト有限会社が使用している電話料金について次のとおり判示している。

「控訴人は、右の『生計を一にする』ものではないことを証する事実として、原審において主張していた事実に付加して、武男方の電話は、大部分、ヤマト有限会社が使用していた旨主張する。

そこで検討するのに、輔佐人野田義郎の陳述書(甲四六)、電話料金の領収書(甲四七の1ないし17)、ヤマト有限会社の商業登記簿謄本(乙一八)及び弁論の全趣旨によれば、ヤマト有限会社は、本店を武男方に置き、控訴人夫婦や武男夫婦が役員となり、武男が代表取締役であった会社であり、同人方の側に建築される「東洋荘」を所有するなど、不動産の管理、賃貸等を業務とする会社であること、武男宅の電話は、ヤマト有限会社宛てにその料金の請求がされているが、回線使用料は住宅用であることが認められ、同事業によれば、武男宅の電話は、同人が経営していたヤマト有限会社が契約したものであるが、同会社は、武男や控訴人らの家族が経営する同族会社であり、法人と個人の区別が明確にされていた様子が窺われない上、回線料は、「住宅用」であったから、電話の使用者は、法人であるヤマト有限会社ではなく個人であったとも考えられるから、このような会社の実態に照らすと武男宅の電話を使用していたのが専らヤマト有限会社であったとは即断できない。他に、前記控訴人の主張する事実を認めるに足りる証拠はない。」と判示している。

しかしながら、本件の争点は、上告人と小南武男らが所得税法第五六条に規定する「生計を一にするかどうか。」である。

被上告人の更正の処分理由には右の電話代については、処分理由に附記されていなかった理由である。上告人がなした異議申立に対する異議決定及び同審査請求に対する裁決にも全くなかった理由である。被上告人が更正処分を保障維持するうえで苦し紛れに訴訟の段階で、しかも弁論期日(第四回平成六年一二月一六日)の本人尋問において上告人に対し、突然抜打ち的に被上告人の訴訟代理人が上告人に対し尋問された理由である。

したがって本判旨の理由は、当初更正処分の附記理由の追完であって判示するまでもなく、電話代を訴訟の段階で当初更正処分の理由として追加主張すること自体、当を得ないことが明らかであり違法というほかない。

かりに原判決の判断のとおりに解したとしても、その取引行為はヤマト有限会社と小南武男間のものであって、上告人とは何等関係のないことであり、ヤマト有限会社を調査の結果、原判決が判示するような行為がかりにあったとしても、その場合は法人税法第一三二条の規定をヤマト有限会社に適用すれば足りるものであり、ヤマト有限会社が同族会社であることを理由に上告人とヤマト有限会社が財布が一つであるというような認識をもつことは誤りである。

むしろ、原判決のような判断が正当であるとするならば、ヤマト有限会社の法人格を否認すべきであって、上告人とは何等関係がない。誤った判断である。

第六点 小南ハルミが支払った固定資産税及び上告人が小南ハルミに支払った地代について

被上告人は訴外小南ハルミが支払っている固定資産税全額を、上告人と小南ハルミが「生計を一にする」とし所得税法第五六条を適用し、上告人の必要経費として一方的に上告人が経営する病院の必要経費としている。ところがこの土地は小南ハルミ(小南良一の三女)の所有地(良一から相続)であって、法務局の土地登記簿及び市役所の固定資産台帳に明確に、小南ハルミ所有となっている。現行所得税法は、実質課税の原則を採用し、実質上の収益の享受者に対し所得税を賦課することによって法秩序を守り、公平を期することを目的としている。

税法上の実質主義とは、税法上の解釈適用にあたって、その形式的、表現的事実だけでなく、その実質に従うべきであるという原則である。このことは租税公平主義の要請するところであり、実質課税の原則である。そこで課税要件事実の認定にあたっては、その対象である事実関係や法的関係の「外観と実体」ないし「形式と実質」とが乖離している場合には外観や形式に従ってではなく、実体や実質に従って事実判断をしなければならない。すなわち表面上存在する事実や法律関係との間に違いがある場合には、課税要件事実の認定は、真実に存在する事実や法律関係に即して行わなければならない。このことは租税法にかぎらず、あらゆる法の分野において共通の原則である。

公簿上の所有名義と実質的所有者が一致しており、かつ真正な所有者であって上告人との間に正式な賃貸借契約書を取り交わし、これに基づく不動産所得をその他の所得と合算して確定申告書を毎年継孫して課税庁へ提出し、租税回避を目的とする事実がないにもかかわらず、これをたやすく否定し、訴外小南ハルミに対する収益の帰属を否定し、右固定資産税を上告人の必要経費であると認定することは、社会経済生活を乱し、法秩序の安定を損なうばかりでなく実質課税の原則に反し違法である。

特に十数年に亘り、上告人が小南ハルミに支払った対価の額を、継続して適正額と認め、上告人も被上告人の従来の指導や処理を適正なものと信頼していたところ、特段の事情が無いにも拘らず、突如としてこれを否定することは、その経緯からして到底承認することができない。訴外小南ハルミに対する事実認定にあたっては、前記事実を最大限に尊重し、実質課税の原則に副うた事実認定を強く主張する。

併せて憲法に規定する個人の尊厳(一三条)法の下の平等(一四条)財産権の保障(二九条)租税法律主義(八四条)に遺脊することを付言しておく。

右事実存在の証拠(甲第一〇、一二、二一、四五、五〇、五二号証)

第七点 偽証の指摘

一、乙第一九号証の証人の陳述書について、

(1) 清水敦子さんの聞き取り書(別紙1)について、

1 陳述書においては、清水敦子さんの「聞き取り書」となっている。

(別紙1)の標題は「確認書」となっている。

2 この確認書には、不思議なことに、日付が記入されていない。

3 聞き取り書とされていますが、問の記入がない。証人が何をどのように聞かれたか、このような一方的な記述だけでは何を確認されたのか、全く了知することができない。

4 本件は、昭和六三年、平成元年、平成二年、の三年分にかかわらず各年分の所得税確定申告書に係るものである。したがって、実質課税の原則により、その該当年分の現状により、事実認定をし、課税要件事実を判断するのが正しいと思われるが、本確認書は日限の表示が全くなされていない。したがって課税要件の事実の認定が、その時に存在する事実や、法律関係に即しているのか、どうかの判断が極めて困難である。(清水敦子は平成三年一月二〇日の現況を答えている。)

5 <2>食事は家族四人分作られる。(院長、妻、長男、母)

これも証人は、何時現在の家族構成を基準とされているのか、全く不明である。

本件に関しての家族構成人員であれば、昭和六三年、平成元・二年の現況で判断すべきであるが、調査日の平成四年一月二〇日現在を基準としているから、本確認書は基本的に誤っている。「食事は家族四人分作られる」とは言っていない。

6 <3>食事は妻または母が作る。

清水敦子が証人に答えたのは、清水家の食事は私が、小南家の食事は、母、小南ハルミが作ると、答えているが、「食事は妻または母が作る。」とは答えていない。全く事実に反する書証である。

7 <4>「食事代は、いっしょに住んでいるので、金額を決めてやりとりしていない。」とは言っていない。食事代だけとしては、清水家、小南家間で決めていない。水道光熱費、ガス、食事材料費の合計を、清水3、小南1の割合で精算していると答えている。全く事実に反する書証である。

8 <5>「公共料金も一括して支払いしている。」とは言っていない。電気水道代は小南家の分も含めて、一括して病院の経理で院長に対する仮払金として計上していると答えている。全く事実に反する書証である。

9 <4>―2「食事材料を、買い物に行った者が、お金を出すような感じになっている。妻が行った時には妻が、母が行った時には母がお金を出している。後で積算することはない。」とは言っていない。

清水敦子が答えたのは、買い物に行って、帰った後、その場で直ぐに精算することはないと答えている。全く事実に反する書証である。

以上のとおり、証人の確認書は、清水敦子が答述したことと、大きな違いがある。さればこそ、清水敦子は、このような間違いの書類に、証人から強引に署名押印を求められたから、診療中の上告人に、玄関口へ来てもらって、証人と面接してもらっている。上告人が証人とその時点で交渉した経緯を、上告人が記録した日記帳を保存しているから、これを証拠(甲第三六号証別紙添付)として提出する。なお証人は、本聞き取りについて、上告人及び補佐人に何等の事前通知がなかった。清水敦子が所用で、出かけようとした時に、突然来られた。したがって敦子は聞かれたこと以外は答えていない。また署名押印を求められたが答えもしないことを記録しているのでこれを拒否した。

右事実を征するため上告人は小南ハルミ・清水敦子の陳述書(甲第三九号証及び甲第二五号証)を提出している。

(2) 居宅の見取図(別紙2)について証人は、「清水敦子の聞き取りをもとに、署において作成」とあるが、証人が作成された(別紙2)見取図と、これをもとに作成された(別紙3)とする見取図とは異なっており一見して誤りが識別できる。

上告人が審査請求書の際に添付した、建物見取図(甲第一九号証)が正確な見取図である。証人はこのような粗雑な資料をもとに推計を加えて事実判断した結果、裁決書(甲第七号証一―一二頁―一三頁C―(B))において、「原処分庁の事実誤認」を指摘され、被上告人の事実誤認であることが、明確に記録されている。

そのうえに、不思議なことに、作成日は「平成三年六月六日又は、平成四年一月二〇日」となっており、まことにもって曖昧極まるものである。

(3) 小南ハルミさんの聞き取り書の偽証。(乙一九号証別紙4)

(証人調書(続行尋問分)平成八年六月一四日速記録)一頁から五頁六行目まで

平成四年二月一日、補佐人と小南ハルミは、上告人の応接間で証人と面接した。ところが、不思議なことに、(別紙4)の聞き取り書なるものは、当日証人が記録した書面と全く異なっている。そこで、補佐人は何故にこのような事実に反する書面を証拠として提出するのか、証人の、真意が図り知れないから、平成八年六月一四日、第八回口頭弁論における証人尋問の際に、補佐人は証人に対して面接当時の事実関係を質した。ところが証人は事実に反することを、まことしやかに証言している。補佐人は、この(別紙4)の問答書は面接当日作成されたものでないことと、この問答書を、小南ハルミと補佐人の前で読み聞かせ、署名押印を求められたことは、絶対になかったことを、天地神命に誓って補佐人は断言する。正しい聞き取り書であって、署名押印を求められたものであれば、補佐人は証人と相協力して、小南ハルミに説得して、必ず、署名押印を強力に促します。証人が読み聞かせたことも、署名押印を求められた事実も絶対にない。虚偽の書記である。

右事実は証人調書(平成八年六月一四日、第一審速記録)によって明らかであるが関連部分は左のとおりである。

平成六年行ウ第七号

速記録 原本番号 平成六年民第六一号の三

第八回 口頭弁論(平成八年六月一四日)

証人 山崎恭範

上告人代理人輔佐人

まず、小南ハルミの、証人が同所調査の時点で、聞き取り書を取られましたのを、前回の証人尋問の際に一九号証で提出されましたですね。

乙第一九号証を示す

その中で、私も証人が御承知のとおり、その当時は税理士として立会をさせていただきましたが、御記憶がこざいますか。

はい。

そのときに、私は、小南ハルミ様と同席して、証人さんは私の前にお一人お座りになっておられまして、それで、お待ちになった罫紙に尋問事項をお書きになっておられましたですが、間違いがこざいませんか。

はい。

そのときのお書きになった事項と、前回、一九号証に付けてお出しいただいた証拠とは、全く同一のものでございましょうか。

もう一ぺん質問していていただけますか。

一九号証の別紙4、この書類は、小南ハルミに対して証人が尋問なさったことは、私も承知いたしておりますけれども、その際にお書きになった、私もすぐそばで、証人が前にいらしたから、すぐ前で、お書きになっておることをつぶさに見せていただいておりますけれども、かような清記されたものではこざいますけれども、証人は、これはそのときに要点をお書きになったものんを、役所へ帰ってからか、どこか知りませんけれども、その後において、これを清書改ざんなさったものではございませんでしょうか。

違います。

そうすると、最後に、以上、聴取の上、被質問者に読み聞かせ、署名押印を求めたが拒否したと、はっきり明確にここへ御記入ございますが、その事実はございますか。

もう一ぺん、すいません。

非常に大事なところでございますので、明確にお答えいただきたいのでございます。以上、聴取の上、被質問者に読み聞かせ、署名押印を求めたが拒否したとあります。この事実は、本当に証人が、小南ハルミ、また、当時の立会人野田義郎の前で、明確におっしゃったことでこざいましょうか。

すいません、この文書全部なのか、それとも今おっしゃった二行の部分のことをおっしゃっておられるのか、どっちのことなんか、ちょっとよく分からないんですが。

私が申し上げたいのは、全文を読み聞かされた事実もございませんし、この最後に押印を求めた事実もございませんから、それを私は証人様に、真実のことをここで、裁判官さんの前でおっしゃっていただきたいことを切にお願いしとるわけでこざいます。それにお答え願います。

どうお答えしたらいいか、分からないんですけれども。

読み聞かせた事実がありますとか、ありませんとか、押印を求めたが、小南ハルミが、それは押しませんとか、事実、その当時のことをそのままおっしゃっていただければ結構なんでございます。

いや、ここに書いてあるとおり、読み聞かせましたし、署名押印も求めましたが、拒否されました。

上告人代理人(小川)

山崎証人は、当日、小南ハルミに対して、問い答えの、この別紙4の全文を読み聞かせたわけですね。

はい。

そうして、署名押印を求めたというわけですね。

はい。

されども、署名押印は拒否されたということですか。

はい、そうです。

以上速記録のとおり、証人は、裁判官の面前で偽証している。

(4) 「家事費ノート」の入った、ダンボール箱を、山崎調査官に手渡した事実について、

山崎恭範国税調査官(以下調査官という)は、平成三年七月二日補佐人の事務所へ来られ、「現在借りている元帳と、薬以外の請求書、領収書等を借りて照合検討したいから、平成元年分と同二年分を揃えるよう」要請があった。補佐人の職員がこれらの書類を提出した。その中には、「家事費ノート」とは表記してないが、「昭和六一年一一月―昭和六三年一二月」(グリーン色)と「平成元年一月―平成三年五月」 (ブルー色)の二冊に原告の妻清水敦子が前記のとおり、記入期間を墨書したspiralnoteが間違いなく含まれていた。調査官もこれらの書類を確認のうえ自らダンボール箱に入れられた。この場に立会いしていた補佐人と、補佐人の事務所職員も間違いなく確認している。調査官は箱の中へ書類全部を入れてから、「書類の預り証を渡すが、このように、書類がとても多いので、いちいち書類名や枚数を書ききれないから、(薬以外の経費の請求書、領収書)と書名欄に書くことでよろしいか、」と補佐人に了解を求められた。補佐人は、税務署と税理士の信頼関係を理念としているから、即座に、「結構です、そのとおり書いて下さい。」と返事した。受領印も押されてなかったが認めた。ところが、このダンボール箱の受渡しについて、調査官の証言と補佐人の主張には、次のような齟齬がある。

被告指定代理人に対する証人答弁(第七回口頭弁論平成八年三月二二日証人速記録一三頁から一四頁のうち関係事項のみ抜書)は左のとおり。

問 その後、六月下旬以降になりますが、更に六月七日、八日で預かった帳簿以外に清水先生のところから何か書類のようなものを預かったということはこざいますか。

答 はい、野田先生が調査のほうの面談する時間を作っていただけませんので、七月の上旬だったと思うんですが、経費関係の請求書、領収書類をお預かりしました。

問 それは、どういう書類というか、大体冊数ですね。

答 冊数といいますか、箱に入れてお預かりしましたので、何冊とか何枚とかいうのは数えておりませんけれども、大体箱で二つ程度お預かりしましたように思います。

問 箱というのは、どういう箱でしょうか。

答 ダンボール箱だったと思うんですが。

問 それは、証人のほうが野田税理士の事務所のほうに行って預かったものなんでしょうか。それとも野田税理士のほうが税務署のほうに持って来たものなんでしょうか。

答 私が、借りたいので、病院のほうへ行きますと言ったところ、野田税理士のほうが、わたしのほうが預かってきますということで、野田税理士の事務所のほうに取りに行ったと思います。

さらに第八回口頭弁論(平成八年六月一四日速記録六頁一〇行目から七頁九行目まで)証人山崎恭範は補佐人の尋問に対し、次のとおり答弁している。

問 そのときに、薬品以外の、請求書、領収書、一切をお借りしますと、私に述べられたことを御記憶はございますか。

答 具体的にどう申し上げたかは覚えておりませんが、必要経費に関する領収書、請求書を、お借りしたのは覚えております。

問 それで、その段ボールケース二箱に入れて、当日、私ほうの事務所の者が税務署の裏口までお届けして、相当重うこざいましたから、裏口まで持っていって、証人にお渡ししたことは御記憶がございますか。

答 記憶にありません。おっしゃったようなことはありません。

問 ようく思い出してください。非常に大事なことでこざいますので、私のほうも、私が持っていったんでなくして、証人をもって後で立証させることが可能でございますので、まあ、証人さん、正直におっしゃってください。ないということで承知して、よろしゅうございますか。

答 はい、持ってきていただいてはおりません。

右の、山崎証人の答弁は事実に反している。当日は雨が少し降っていたうえに、調査官は自転車で補佐人の事務所へ来られていた。重いダンボール箱二個を、自転車に乗せて、税務署まで帰れる状態でなかった。

補佐人の職員が乗用車のトランクに積んで、税務署の裏玄関で降ろして調査官に確かに手渡している。この事実は補佐人の卓上日記(甲第三四号証)に明確に記入している。証人の証言と、補佐人の主張とには齟齬がある、というよりかむしろ、原更正処分の保障を目的で敢えて偽証せざるを得なかったと思われる。

以上、(1)(2)(3)(4)の証言及び書証は何れも偽証である。

しかしながら、第一審はこれらの偽証に対し何等の疑念をもたず、被上告人の証人の証拠及び証言に対し、判決書(第一審三一頁末行)において、「その信用性は高い」とし、上告人らの証拠及び事実を斥け、無視した判決は経験則に違反、かつ採証法則に違反し憲法第三二条に反する。

第八点 信義則に反する

1 被上告人の信義則についての主張に対する反論

上告人が訴状において「十数年に亘り被告は原告が訴外両名に支払った対価の額を、継続して適正額と認め、原告も被告の従来の指導や処理を、適正なものと信頼していたところ、特段の事情が無いにも拘わらず、突如としてこれを否定することは、その経緯からして信義則に反し、租税正義の理念に反する」旨主張したことについて、被上告人は左のとおり反論している。

「本件において、被告は、これまで、原告と武男及びハルミとが生計を一にする親族に該当しないと積極的に認めたこともなければ、原告から武男又はハルミに対して支払われた給料賃金及び地代家賃を、原告の事業所得の金額の計算上、必要経費として算入するのが適正であると積極的に認めたこともない。単に、原告から武男又はハルミに対して支払われた給料貸金及び地代家賃を、原告の事業所得の金額の計算上、必要経費として算入してきた原告の税務処理に対して、これまで被告が更正ないし是正の指導をしたことがないというだけのことである。したがって、本件において、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は全く存せず、もとより信義則の適用の余地はないのである。」

しかしながら、被上告人は「生計を一にしない。」を認めたことはないとしたうえ、「納税者の平等・公平を犠牲にしても課税処分に係る課税を免れしめてまで、信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は全く存せず」としているが、そもそも信義則の法理は専ら個別的救済において、正義を実現するものであるから、何人もそれを信頼することが無理からぬ特段の事情があれば、形式的正義を排しても、実質的正義をはかることが法の正しい要請である。

したがってそのために他の納税者に対し同じ取扱いをしなければ、平等、公平の要請を犠牲にすることにはならない。正義の実現によって、形式的に誤った課税処分に係る課税が減少することにはならない。正義の実現によって、形式的に誤った裸税処分に係る課税が減少することになっても、それは当然のことであって減少部分を他に帰属させることもない。被上告人が正義に反する処分を行っているのであるから、不合理性を除去するために正義実現を実行すればよいだけのことであるにかかわらず、そのことを放置して、「特別の事情は全く存せず、もとより信義則の適用の余地はない」と主張することは、法の根底をなす正義の理念に二重に反することになる。

何となれば、これまで課税庁が行政活動の一環としてなした表示・回答・指導的な保障が、当該処分の取消訴訟においても保障されている。このことは青色申告制度における「信頼性」に基づく信義則の一面の現われとなっている。

すなわち所得申告の更正処分については、申告の期限内から三年間ということに限られている。この規定は右の期間経過後は、課税庁は、もはや更正してはならないという趣旨のものである。しかもその更正処分には理由を付記することが定められており、処分時の理由とされるべきものである。

しかしながら被上告人は、申告期限から三年以上も経過した後に、しかも、異議決定・審査請求・訴訟係属中に迫完することは信義の原則に反することである。

2 上告人が本件で特に信義則違反であると主張する家事費ノートについて、(甲第一一号証、甲第三八証)

そもそも、この「家事費ノート」なるものは、上告人が東洋診療所(開設当時現在は東洋病院)を開設して、課税庁の始めての調査(昭和五三、五四年分)を昭和五五年に受けた際に、担当調査官から家事費ノートの記載要領の指導を小南武男が受けた。(この調査場所に補佐人も同席立会していたから、小南武男が指導を受けたことは間違いない。)以来この要領にしたがって、上告人の妻敦子と、小南南武男の妻ハルミの両名が記帳を始めたものである。それまで買物のレシート、領収書等は個別に編綴していたが、その要領では領収書等が散逸するし、月末に集計する際も煩瑣であった。教わったとおりにすることによって、正確に、しかも手間も省けた。

以来この家事費ノートは十数年間に亘って誠実に凡帳面に領収書などを整理保管し、清水家と小南家の間で取り決めた家事費の負担割合三対一によって毎月正確に精算し、お互いに間違いなく受取の証を記録している。

両家の負担割合は、当時の家族構成の人数と、両家の実体により勘案のうえ定めたものである。したがって合理的であることは、その後の税務調査においても認められている。小南武男死亡後も負担割合を変更していない。上告人の子供らが進学(大学)したため、上告人の方も家族が減少しているから、従前の負担割合で均衡が保たれている。

しかしながら被上告人は準備書面において、「家事費ノートについては、その指導をした事実はなく、また、過去の調査においても、家事費の負担割合を是認し、上告人らと小南武男夫婦が「生計を一にする親族」に該当しないことを積極的に認めたこともないし、その旨の表明もしていない。」と主張しているが、この点については当初本件調査段階から、山崎証人に対して何回も口頭で上告人及び補佐人から、過去に是認されていることを主張した。異議申立に係る国安調査官、審査請求に係る榊原審判官にも、上告人及び補佐人からその事実を口頭で強く主張している。さらに上告人から提出した異議申立書(甲第二号証の一乃至三)審査請求書(甲第四号証の一乃至三)及び反論書(甲第六号証の一乃至三)においても、『前回税務調査の際、これらの事実について主張を繰り返したがその都度「その事実ない。」と被告は主張している。その時点で請求人が原処分庁へ提出した修正申告書の内容を確認すれば「その事実ない」の真否が判然といたします。』と上告人はこれまた繰り返し主張している。

「家事費ノート」等を調査の結果、「生計を一にしない。」とされた本件に係る更正処分以前の経緯について。

第一回目の調査は(創業から昭和五四年分について)広崎舜士統轄国税調査官、中村光春国税調査官が担当で、補佐人が立会し、一般経費のほか、家事費関係について、病院の給食その他の費用とが混同していないかを重点に調査を受けた。その時家事費関連の請求書領収書等の整理が不十分ということで、調査担当官から、記帳整理の要領を小南武男が指導を受けた。以後その要領によって上告人の妻清水敦子と、小南武男の妻小南ハルミが継続記帳している。調査の結果、所得税法第五六条を適用される事実はなかった。

第二回目の調査は、昭和五五、五六、五七年分について、服部博国税調査官が担当で、補佐人が立会し、営業費全般及び総勘定元帳の院長仮払金勘定と、家事費ノートとの照合等、丹念な調査を受けたが、非違なく、所得税法第五六条を適用される事実はなかった。

第三回目の調査は、昭和五八、五九、六〇年分の三年分について、昭和六一年五月―六月の間、小野正夫特別国税調査官担当で、補佐人立会のうえ、長期間にわたり、病院の経費関係、特に院長個人の家事費と病院との関係について綿密に調査された。「家事費ノート」に貼付のレシートにつき、態態キョーエイ矢三店の反面調査を実施、ガス、米代についても同様調査の結果、何等非違がなかった。

調査が終わり、院長室で上告人及び補佐人に対し、「病院の経費関係特に給食費、水道光熱費及び家事関連費については、清水家と小南家との経済面の決済を検討したが、特に問題はなかった。只、他の病院と比較して申告所得金額が若干低いように思われるから、所得金額を増額し、修正申告書を提出してもらいたい。」ということを言われた。その後、小野特別国税調査官は栄転され、後任の伊勢勝彦特別調査官から補佐人に連絡があり、「清水寛先生の調査の結果は前任者から聞いている。帳簿上及び、家事関連費等について間違いはないから修正の必要はないが、申告された所得金額が、他所の病院と比較して若干低いから、所得金額で五百萬円を当初申告額に上乗せしてもらえませんか、青色申告ですから修正の方法として棚卸の薬品が五百萬円計上もれがあったことにして下さい。昭和五九年分と同六〇年分に分けて下さい。結局加算税と利子の負担をかけますが、その点辛抱してもらうよう先生(上告人)にお話してもらえませんか。」と代理人(補佐人)に依頼があった。補佐人は困惑したが、前記依頼の主旨を上告人及び事務長小南武男(以下小南武男という)に伝えた。上告人は、これに応じなかったが、小南武男が間に入り、「調査官の立場を考えて、次の年分で薬の繰越として同額を減算するという条件を確約してくれるのであれば、余分な負担のかかることではあるが、依頼されたとおり修正申告に応じたらどうか。」との意見を述べ、上告人に相談された。上告人はこれに対する補佐人の意見を尋ねられたが、「補佐人としては間違った解決策ですから如何様とも申し上げられない。先生(上告人)の御判断に従うよりほかありません。」と答えた。結局小南武男の意見に従って二年分の修正申告書(甲第二八号証の一乃至二)を提出している。同時に証拠として提出した(甲第二七号証の一乃至二及び甲第二九号証)は前記修正申告の内容と、次年分で、棚卸薬品の額を是認された証として提出したものである。

第四回目の、本件に係わる調査の際の「家事費ノート」について、本件に係る今回の調査は、平成三年六月一〇日一一日に調査を受けた。(甲第三一、三二号証)

ところが、今回の山崎恭範国税調査官は、平成八年三月二二日証人尋問において、調査日を、平成三年六月六日、七日の二日間と証言しているが、誤りである。

補佐人は調査一日目の冒頭に、病院の組織、経理の状況、個人関連費用、過去の調査における問題点を説明した。特に毎回の調査で問題になる家事関連費用については左のように調査官に詳細説明している。

「家事関連費用を病院が立替払いをした場合、病院の総勘定元帳に「院長仮払金」(甲第三五号証別紙添付)という口座があり、(インデックスを付けてあります)ここに計上した、電気、水道代等については、清水家、小南家と別々にメーターが付いておりませんから小南家の使用分も含めて、上告人(清水寛)が立替払いをしております。毎月末に食費等を合計して、清水家、小南家を三対一の割合で精算いたしております。精算状況は、清水敦子と小南ハルミが、記帳しているノートを見ていただければ詳細が分かります。」と説明している。

以上、「家事費ノート」の経緯を述べたが、過去十数年に亘り、被上告人が是認してきた「家事費ノート」を、特段の事情(租税回避)が無いにも拘らず、突如として、本係争年分に限って否認することは、上告人が被上告人の従来の指導や処理を適正なものと信頼していた信念を根底から覆され、その行為は信義則に反するものというほかない。

第九点 突然の差別扱いを受けたことは憲法第一三条・一四条・二九条に反する

小南武男は上告人の義父である。上告人が経営する病院の事務長として、昭和五四年から平成二年七月二六日に死亡するまでの間、勤務していたことは事実である。

その間上告人は継続して武男に労働の対価として給与を支払っている。武男はこの所得に対して源泉所得税、県市民税、社会保険料(甲第四九・五一・一八証)及び上告人から受けた給料以外に「その他の所得」があることから、毎年これらの所得を合算して所得税の確定申告書(甲第四四証)を税務署へ提出しており、憲法第三〇条の規定による納税の義務を果たしている。

したがって武男は上告人から給与及びその他の所得から、租税公課・社会保険料その他生活費等に支出した残余は預貯金等財形貯蓄をしている。

武男が平成二年七月死亡したため、前記蓄積財産と所有不動産を合算して相続税の申告書(甲第一六号証)を被上告人に平成三年一月二五日に提出している。本件各係争年分の所得税の更正処分は、平成三年三月一三日であるから、前記相続税の申告後になされたものである。

ところで、本件更正決定は上告人と武男が「生計を一にする」として所得税法第五六条を適用したものであるから武男が上告人から受けた給与の金額は支払がなかったものとされる。

そうすると、武男の給与は上告人の必要経費に算入されない。その代り武男が上告人から受けた給与は、被上告人の確定申告所得金額を更正処分すると同時に武男の確定申告所得金額も被上告人の責任において減額更正処分をしなければならない。また武男に係る相続人が被上告人に提出した相続税申告額の財産の中には上告人が武男に支給した給与から源泉所得税等を差し引いた残額の幾らかは預金されていることが武男の預金通帳の入金状況から判断して明らかである。そうすると被上告人は上告人に対し所得税法第五六条による更正処分をする限り武男に係る相続税申告額についても減額更正の処理の責任をとらなければならない。

ところが、被上告人は上告人に対し、前記のとおり更正処分をした時点で武男に係る所得税について減額更正をしていない。上告人の原審輔佐人野田義郎が被上告人の担当竹森第一統轄官に面接し、「かりに被上告人の所得税更正処分が正しかったとしても、それは上告人に対する課税面のみを考慮した処分であって、法で定められているその親族が支払を受けた対価の額及びその対価に係る必要経費に算入されるべき金額についての更正処分を被上告人はしていない」ことを主張したところ、竹森第一統轄官は「前任者が担当していた関係で詳細については不明だから後日連絡する」として減額更正処分の通知が武男の相続人等に届いたのは、本件審査請求各係争年分の裁決終了後の平成六年一月三〇日であり、さらにその減額更正処分に誤りがあったとして再更正処分の通知を受取ったのが平成六年三月四日である。以上被上告人の武男関係に対する所得税の更正処分の処理は異常に遅延している。

しかしながら、被上告人が上告人及び武男らに対してなした更正処分行為は、上告人及び武男らは租税回避の意思は毛頭なく生計も一にしていないことが明らかであり、特に十数年に亘り被上告人は上告人と武男らの前記した行為を継続して適正額と認め、上告人も武男らも、被上告人の指導や処理を適正なものと信頼していたところ、特段の事情が無いにも拘らず、突如としてこれを否定することは、憲法第十三条に規定する基本的人権が保証されている個人の尊重が失われるばかりでなく、個人が労働の対価として得た給与から蓄積された預貯金等を相続財産に加算してなした相続税申告書を無視し、たやすく給与を否認し、上告人の所得に加算することは、憲法第二十九条に規定されている財産権の保障を侵害することとなる。

一方上告人と同規模で経営している病院が医療法人であるためにそこで労働の対価を得ている親族が理事長と親族関係のうえに理事長と「生計を一にしている」にかかわらず、その親族は一般の給与所得者と同じように源泉所得税だけを支払う以外は別段の税負担はなく、永年に亘ってその行為は当然のこととして課税庁から是認されている。

したがって右の医療法人の場合と上告人と比較した場合次のとおりである。

(一) 親子関係の親族であることは前者・上告人とも同じである。

(二) 前者は親子が生計を一にしているが、上告人は一にしていない。

(三) 事業経営の態様は前者は法人で上告人は個人経営である。

(四) 前者は代表者から受ける給与について源泉徴収されており、上告人も従来全く同じであったが、この度の更正処分により、武男、ハルミの給与は所得税法第五十六条を適用され、その支払はなかったことにされた。一方その給与の額は上告人の所得の必要経費として認められなかった。以上のとおり上告人は永年に亘り前者と同じ条件で是認されてきた武男らに支給していた給与特段の事情がないに拘わらずが突然認められないということは、憲法第十四条の「すべて国民は法の下の平等」であるとの規定に違憲するものであり、本件更正処分は違憲というべきである。

第十点 小南武男について

一 小南武男は平成二年七月二六日病気で死亡されましたが、生存中は本人の履歴書(甲第一七号証)のとおり、永年株式会社森六で勤務され、四国支店長として営業全般において成績を挙げられ、同社の総務本部長まで勤められたばかりでなく、昭和四九年十月一日法務大臣より保護司を委嘱され、亡くなられるまでの間社会奉仕の精神をもって、犯罪者の改善更生と地域社会の浄化に盡くした。この御苦労に対し、法務大臣長谷川信より感謝状(甲第十四号証、甲第十五号証)を受けた。その高潔、誠実な人格に一般から尊敬されておりました。さればこそ退職後に多方面から招聘がありましたが、上告人が西洋医学の欠点を補う東洋医学を基盤とした、薬物療法、物理療法、食事療法、運動療法をもって地域医療に貢献し、さらには、これらの理にかなった治療及び予防法や在宅療法に日夜奔走していた上告人の病院経営に理解を示され、上告人が当時事務長を求めていた矢先であったので、病院の内外面の総務、事務、一般の仕事を引き受けて、病死されるまで、頭が下がり感謝しても感謝してもし盡くされないぐらい、ほんとうによくしていただきました。特に病院、上告人(清水家)、小南家間の金銭関係については非常に厳格で、上告人の親(群馬県の清水家)に対する上告人の立場を十分理解してくれておりました。したがいまして、病院開設後第一回目の所得税の調査の時にも、家事関連費の記帳要領まで担当官から指導を受け、その要領によって金銭的な間違いが生じないよう留意して家事費ノートを継続記帳して今日まで整理保管していた。このように清水家と小南家の金銭関係、預貯金等は、それぞれが明確に区分されていた。

以上のことから御判断していただいても、上告人と小南武男、ハルミ等が厳格に生計を一にしていないことが、御理解していただけると信じております。

二 小南武男の履歴書(甲第一七号証)

本書証は、上告人らと、上告人の父小南武男ら(平成二年七月死亡)が、上告人の東洋病院開院前から、「生計を一にしない」ことを証するために提出したものである。

三 小南武男の相続税申告書(甲第一六号証)小南武男の死亡によって徳島税務署へ提出した相続税申告書の内容からみても、小南武男は経済的面で財産管理を明確にしており、上告人と財布を一にしていないことが判然としている。

四 小南武男らが、上告人と明らかに「生計を一にしない。」事実を証するため、左記証拠を提出及び提示している。

(1) 小南武男の履歴書(甲第一七号証)

(2) 小南武男に対する保護司委嘱状(甲第一四号証)

(3) 小南武男保護司への感謝状(甲第一五号証)

(4) 小南武男、ハルミの社会保険保険者取得届(甲第一八号証)

(5) 小南武男の徳銀預金通帳(甲第二〇号証)

(6) 小南ハルミの徳銀預金通帳(甲第二一号証)

(7) 東洋病院職員名簿一覧表(甲第二二号証)

(8) 小南武男の相続税申告書(甲箒一六号証)

(9) 既往各年分の所得税確定申告書(武男分)(甲第四四号証)

(10) 既往各年分の所得税確定申告書(ハルミ分)(甲第四五号証)

(11) 源泉所得税 (武男分)(甲第四九号証)

(12) 源泉所得税 (ハルミ分)(甲第五〇号証)

(13) 県市民税 (武男分)(甲第五一号証)

(14) 県市民税 (ハルミ分)(甲第五二号証)

(15) 固定資産税 (武男分)(甲第一二号証)

(16) 固定資産税 (ハルミ分)(甲第一二号証)

(17) 住民票 (武男分)(甲第一〇号証)(上告人分 甲第八号証)

(18) 戸籍謄本 (甲第九号証)

(19) 上告人と小南の建物は別棟 (甲第五四号証)

以上(1)―(19)の証拠から判断しても、上告人と小南武男らは「生計を一にしていない。」ことが明らかである。

五 小南武男は保護司として法務大臣表彰を受けた社会的に名を成した名士であって、自ら社会的に違った生活形態を営んだ。従って、上告人と経済的にも雑然と混合することはなかった。

小南氏はことのほかきっぱりとした人格を全うした人である。特に上告人と小南家間の経済関係については厳しく、同じ財布のもとで消費の支出をするようなことは一切しなかった。

六 小康武男について、

小南武男は、生涯、「愛と和を以て」地域社会に貢献した。「身を修むるに身法あり、国を治むるに国法あり、身を誠にし行ひを正ふするは身法の要道なり、権を護り悪を戒むるは国法の要義なり」を理念として、人の道を行とに対する宝を、保護司の職域を通じて懸命に捧げた。

小南武男は永年に亘り、会社の要職にあり、特に経理部門に明るかった。したがって「租税正義」の意識をもって、上告人が経営する病院の事務長の職域を自覚と責任をもって全うした。

小南武男は本件更正処分前、平成二年七月惜しまれて逝った。されど、東洋病院の事務長とし敏腕をもってした武男が、本件調査の時点で元気で立会しておれば、上告人と武男等の関係を明確に立証が可能であり、課税庁、不服審判所、裁判所等へ過分な手数を煩わすことなきを考慮するとき他界されたことが惜しまれてならない。

しかしながら、武男が他界されたと雖も、個人としての尊重を忘れてはならない。経済的に平和に暮らしている私生活を、特段の事情も無いに拘らず、武男らと上告人が「生計を一にする」として所得税法第五六条を適用することは、所得税法第五六条の解釈適用を誤った違法があるばかりでなく、日本国憲法に規定する個人の尊重(第一三条)・法の下の平等(第一四条)・納税の義務(第三〇条)・租税法律主義(第八四条)に違脊し、本件更正処分は違憲というほかない。

第一一点 所得税法第五六条の立法主旨

一、所得税法第五六条の立法の趣旨は、(昭和三二年税制調査会の答申)

<1> わが国では一般に家族間においては、給与等対価を支払う慣行がない。

<2> 親族が事業から給与等対価の支払いを必要経費として認めることとすれば、恣意的な所得分割を認めることとなる。

<3> わが国では記帳慣習が一般化していない。給与等の対価の支払いの事実を確認することが極めて困難である。

<4> 納税者の経営する事業に雇用されている配偶者及び未成年者の給与所得は納税者の所得に合算するようシャウプ勧告があった。(昭二四。八。二七)

二、立法の趣旨についての問題点

<1> シャウプ勧告のあった昭和二五年の税制改正当時ならともかく、勧告後五〇年の歳月が流れた今日において、家族が労働等の対価を提供した場合、正当な対価として当然要求し得るものであるが、これらを必要経費に認めないということは、特別の事情のある場合を除き許されない。第二次大戦後の民法改正により、日本の家族制度は廃止され、家族の共同生活を支配する法的秩序に変わっていったのである。したがって、わが国では、家族間において給与等対価を支払う慣行がないとする立法の趣旨は空文化し、無用の長物にすぎない。

<2> 親族間の給与等の対価の支払いを認めると、恣意的な対価の取り決めがなされ、所得の分割を認め、租税負担のアンバランスをもたらす結果になるとしている。しかしながら、法人企業(中小の同族会社)においても、家族給与等の対価が恣意的に決められるおそれがあるが、これらについては損金算入が認められている。恣意的に親族間の給与等の対価を決められるおそれがあるのであれば、法人税法第一三二条における規定と同じ扱い方を所得税法においても取り入れ適用すれば足りる。

以上のとおり、親族間の給与等の対価の支払いを認めないということは、合理性がないばかりか、前記法人企業に対する措置と比較して「租税平等の原則」が尊重されないばかりか、憲法第一四条に宣言されている「平等の理念」が破られる。また、現行の袷与所得に対する、源泉徴収制度の規定の点からみても不合理性があり疑問がある。

<3> シャウプ勧告は申告納税制度を合理的に強力推進するための方策として、青色申告制度を導入したと同時に正確な帳簿の備え付けと記帳を義務づけた。以後五〇年近い歳月が流れた今日においては、当局等の指導よろしきを得て、記帳慣行に習熟し、記帳慣習に対する危惧は払拭されている、といわざるを得ない。

<4> 「生計を一にする」について明確な定義及び判断基準が定められておらず、わずかに通達で「明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合」とあるが明らかの判断基準については全く示されておらずこのような、内部的な指導要領では一般国民は了知することは到底困難であり、憲法が規定する租税法律主義(租税明確主義)に違背し違憲である。

以上のとおり、所得税法第五六条は、実質課税の原則に反する例外規定であり、合理性のない規定であるから、その規定の解釈適用にあたっては、実質課税の原則及び本法適用の前提となる「生計を一にする」の通達に副うよう、厳格に、制限的(恣意的な拡大解釈をしないよう)に留意し、慎重な事実認定と適確な判断をもってしなければならない。

しかしながら、被告がなした本件各年分に係る更生処分は、所得税法第五六条の解釈適用を誤り、原告と小南武男らは、「生計を一にする」親族に該当するとして、給与等については必要経費の控除を認めず、固定資産税については、必要経費として認めた違法がある。

第一二点 被上告人のなした更正処分の附記理由不備を認めた原審判決

被上告人がなした更正処分の更正通知書記載の更正理由は次のとおりである。

「あなたと小南武男及び小南ハルミが同一の家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所を共用している状況から判断して生計を一にする親族と認められますので、所得税法第五六条<事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例>規定により必要経費から減算します。」(以下更正の理由という。)

しかし、上告人は、右の更正の理由だけでは、何故に上告人と小南らが「生計を一にする」のか不明であったからその理由不備を不服として異議申立・審査請求の前置段階を了して訴訟に及んだ。

裁判は、まず事実認定して、その事実に法律を適用して結論を出すことが原則となっている。

そうすると本件で一番重要である「生計を一にするか否か」の事実認定が適正になされているかを検討しなければならない。

ところが、所得税法五六条に規定する「生計を一にする」についてその意義を所得税法基本通達二―四―七―2において次のように定めている。

2 親族が同一の家屋に起居している場合にも、あきらかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

そうすると、本件の場合「玄関、台所、風呂、便所を共用している」だけたの理由では「生計を一にする」ことはできないこと、すなわち、明らかに互いに独立した生活を営んでいれば、生計は一にしていないことを認めるとしているのである。

すなわち、玄関、台所、風呂、便所は共用していても、要はお互いに財布が別で、有無相扶けた生活をしていなければ、生計を一にしていないことになる。

しかるに被上告人は、ただ単に「玄関、台所、風呂、便所を共用している」との理由のみで、上告人と小南らが「生計を一にする」と断定している。

右の事実認定は、前記取扱通達に照らし間違っていることは明らかである。

ところが第一審判決は右の誤った事実認定を基礎にして、

「本件係争年分の原告の武男及びハルミに対する給与の支払並びにハルミに対する地代について、その支払状況、金額を帳簿記載どおり認定したうえで、右給与及び地代を必要経費に算入すべきか否かという法的評価判断の点で原告と見解を異にしてなされたものであり、帳簿書類の記載自体を否認するものではない。」と判示している。

しかしながら、本件で争点の頂点にある「生計を一にするか否か」について、右のような誤った事実認定を基礎に、いかに法律の解釈に精を出して、前記のような法的評価、判断をしたとしてもその裁判は、通常ありうべき裁判ではない。

このような記録上顕著な間違った事実認定を基にした更正処分であるにかかわらず、その更正処分の保障に被上告人は躍起となり、偽った書証や証言まで用意して、しかも異議申立、審査請求、訴訟の段階で次から次へ提出した理由補正追完差し換え等の行為は絶対に許せない。

第一三点 判例違反

原判決は、次の判例に違反すると第一審及び原審において主張したが、何等の判断も判示されることなく判決に至っている。

最高裁昭和五一・三・一八・一小判。昭四八(行ツ)三〇号

この判例では「生計を一にする」について、同居していても生活費の面で有無相扶け、一方が他方を扶養する関係がなければ「生計を一にする」とはいえないとし、要するに現実に扶養関係があるか否かが「生計を一にする」か否かを決めるとしている。

大阪地裁昭和四九・一二・一〇大阪地判昭三九(行ウ)一〇八号

長男は妻とともに原告方居宅南側の六畳の間を専用して起居している。世帯を分離して住民登録をし、食事は原告夫婦と別にし、その費用は原告から支払を受けたけた賞金によって賄っており、光熱費も原告との間において、取り決めた自己の負担部分を支払っていた事例。

おわりに

本件に係る争点は、所得税法第五六条に規定する「生計を一にする」か否かである。

しかしながら「生計を一にする」の意義を確定する判定基準となる規定がない。したがってその解釈適用は極めて困難である。

わずかにその意義を正しく公平に解した判決として、最高裁昭五一、三、一八、一小判。昭四八(行ツ)三〇号、大阪地裁昭四九・一二・一〇大阪地判昭三九(行ウ)一〇八号がある。

生計を一にするか否かの判断により、その所得者の課税所得計算が異なる結果となる。

したがって「生計をするかどうか」の法的価値判断に関係のある本件の検討にあたっては、所得税法第五六条を正しく理解したうえで、慎重な総合判断が必要である。

ところが本件の場合は、所得税法第五六条に規定する「生計を一にする」の意義解釈を全く誤って、同条を適用したことによる不当な更正処分である。

すなわち事実認定以前の、被上告人の一方的恣意的な税法解釈の誤謬によるものである。居住者と親族が同一家屋に居住し、玄関、台所、風呂、便所等を共用しておれば、その事由だけで「生計を一にする」とする事実認定ができるものと誤った法律(通達)解釈をもって、外形的推測のみにより上告人と小南らが「生計を一にする」と判断した結果によるものである。

このことは、被上告人がなした更正処分の通知書及び証人尋問における証言においても明らかである。

このような被上告人の誤った税法知識と認識をもって更正処分を過去三年に遡り突如として受けた上告人は、憲法で保障されている、人権の尊重、平等の原則、財産権、納税の義務等の権利を冒され、さらには永年にわたる課税庁と上告人との間の信頼関係を何等特段の事情がないにもかかわらずなくすことは、信義則にも反する。

この上は、租税明確主義(租税法律主義)により、現行所得税法第五六条に規定する「生計を一にする」の意義を明らかにするとともに、適用基準を明確に定め、二度とこのような過ちの無いことを上告人は強く要望するものである。

と同時に、上告人は租税正義の下、納税の義務を果し続けることを誓約するものである。 以上

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